民を救いたい、掬いたい。それらは決して嘘ではなかった。本心だった。然し無垢な少女は私にこう尋ねた。 ──ならば、お館様のことは誰がすくってくれるのですか。 不敬だと叱る大人を差し置いて、私は彼女の頭を撫でてこう言った。 ──私にとっては、お前達が幸せたることが救いなのだ、と。 /♡私を孤独から救えるのはきっと自分だけなんじゃないか。──あの子の口からそんな言葉が飛び出すだなんて思いもしなかった。あの子は私の何処まで入り込んでくるのだろう、そう思うと少し怖かった。それはあの子を拒絶したいからではない。寧ろ、傷つけたくなかったからだ。あの子は大切にしなければならない。大事に、大事にしたい。だから私の中の本能が、欲望が、不安定で感情的なこの心が。牙を剥く瞬間が、酷く恐ろしかった。 あの子は私にとっての光だ、太陽だ。間違っても共に堕ちようなどとは思わないで欲しい。私が闇に目が眩みそうになったら、頬を引っ叩いてでも正気に戻して欲しい。あの子ならやってくれるだろうと信じちゃいるけれど、それはそれとしても、時折怖くなる。私があの子を飲み込んでしまうことが。だから私は思う、早くあの子に染まってしまいたいと。 そうだ、そうだよ。私をすくえるのは君だけだ。何を今更。あの子以外の何の誰をとったって─インスピレーションを得ることや刺激を受けて感覚を麻痺させることは出来るけど─私の苦しみは癒えやしないし、消すことも出来ない。極論、あの子だけが救いで、私を掬える存在なんだ。 重い言葉で君を縛るのをずっと躊躇していた。でもあの子からそんなことを言われて、黙っていられる筈がなかった。私を最終的に孤独から救える存在がいるのだとしたら、それはきっとあの子だけだろう。あの子が無理ならば、私は一生迷宮に閉ざされた儘だ。正直、それを覚悟していた……この間までは。だからもし私が救われないとしても、それを悲観的には捉えない。出来るだけ長く、共に居られる内は一緒に居よう。そう言った私にあの子はムッとした顔を浮かべて、私に怒った口調でこう告げたのだった。‘Stay by my side forever... until the day I die. (自分が死ぬまで、ずっと一緒に居て。)’──長く永く生きる私への、なんて強大な呪縛だろう。そして、なんて眩しい言葉なのか。 随分前の言葉だが、覚えているに決まっている。あの時、私はあの子の覚悟を見たんだ。あの子は私を離す気なんかさらさらなかったし、私を一人闇に葬ることも許さなかった。同時に私も悟ったんだ。この子は私を置いていかない。そして私も、絶対にこの子を手放さないと。 だから私も腹を括らないといけない。あの子が私の深淵に手を伸ばすこと、孤独や陰鬱に触れることも。きれいな部分だけ見せていたい気持ちはそりゃ大いにあった、でももう遅い。あの子はもう既に、私の内側まで入り込んでいる。 案外、小心者で女々しいのは私の方なのかもしれない。男の沽券に関わる。 |