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Diary : Sole / Lune / Terra / Caelum
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10: V/O/X/A/K/U/M/A(2/4/3/4/E/N)
2026-01-10 19:16:33



#02 FOLK LORE

辺りの雑草と肉と布切れが燃える焦げた臭い、硝煙臭さと無作為に血を吸った刀の錆びた鉄臭さが充満して己の嗅覚をバグらせている。耳を刺す様な人々の罵声と馬の嘶き声、鉄同士のぶつかる甲高い金属音、破裂する様な銃声と爆発音が錯綜して鼓膜を打ち付けるものだから既に方向感覚も判らない。何十もの銃口、畏怖と憎悪と覚悟とに満ちた目がずらりと此方を見詰めている。この惨状は俺の所為で引き起こされたと思っているのだろうか、数多の命が散ったのも俺の所為だと言いたいのだろうか。恐れをなしてブレた銃弾が肩を穿ち、頬を掠める。身体の奥底の方から沸々と湧き上がる感情か魔力か、何かが理性を溶かす。脊髄が皮膚を突き破って出て来ようとする様な熾烈な熱さと痛み、全身の皮膚の下で凸凹に浮き上がる血管がマグマと化した血液を流し激しく脈打ち、直後バリバリと稲光の様な音と共に背中を裂いた黒い骨が禍々しくも赤い翼を縁取って空気を切り裂きながら現れた。鋭い翼の一振りで土埃がごうと舞い上がって、近くで燃えていた草木の疎らな火が風を受けて一瞬にして燃え広がる。耳をつんざく怒号、悲鳴、敵味方など前後不覚、あんなにも尊び慈しんだ小さな命達が、自身の腕の一振りの抵抗だけで容易く幾つも立ち上がっては散ってを繰り返していく。鋭く生え揃ったおぞましい牙の覗く口から出るのは、火口から噴き出す様な熱い湯気の如き息と、地鳴りする唸り声ばかりで何一つ言葉を成すことは無く、夕日を背負い炎の中佇む怪物は橙色に燃え上がっている様に見えた。

“御館様。”舌足らずで無垢な声色、目の前に一人の少年の姿を見た。戦場に居る筈の無い柔らかく幼い命、小さな手がこちらに伸びる。俺の愛する姿、聞きたかった声、それに応えようとした刹那、“旨そうだ。”───紙に零した液体の様に脳裏を一気に染めていく感情に目を見開いた。喉奥が締まって上手く呼吸が出来ず、破裂しそうな程に早くなった己の鼓動が煩く、身体中に冷や汗が噴き出す。あの怪物はまさか、やめろ、やめてくれ、今俺に触るな、来るな! 来るな! 来ないでくれ! 頼むから俺から逃げて、逃げろ、逃げろ、早く早く早く!! ……這いずる様に一歩また一歩と退くと突如踏み外した先に強い浮遊感に襲われる。真下の地面がひび割れて、追い詰められた崖から足元が崩れたのだと気づいたのは己が既に宙に投げ出されてからだった。空をかいた手を掴もうとしてくる小さな魂の幻覚を、切り裂く様に必死で振り払えば、視線の先に映っていた微笑みが崩れていく。誰か助けてくれ、誰も俺に触るな、相反するふたつの叫びが脳内を恐怖の色に支配する絶望と共に、目の前が暗転した。

◆◆◆


地を揺らす様な自分の絶叫で目が覚めた。身体中びっしょりと汗をかき枕に散らばった長髪は所々肌に張り付いて、シーツがまるでおねしょでもしたかの様な酷い濡れ方をしている。薄く開いた唇の間から心臓が今にも飛び出しそうだ。上半身だけを起こし恐る恐る投げ出した片手へと視線を下ろすと、ただの人間の男の手がそこにはあった。安堵に細く長く息を吐き乍乱雑に前髪を上げる。枕元の小さな液晶へ手を伸ばす───俺が今何処に居て、どの時間に生きているのか、それだけを今はただ確かめたかった。

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