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Diary : Sole / Lune / Terra / Caelum
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11: V/O/X/A/K/U/M/A(2/4/3/4/E/N)
2026-01-10 19:22:06



#03 MEMORY LORE

その時の気分は最悪だったが目覚めだけはやたらと良く、滲んだ視界が部屋の輪郭を捉えるまでそう時間は掛からなかった。往生際悪く布団の中にもぞもぞと身体を埋め再び目を閉じてみるも、数秒と経たずに居心地の悪さにあっさり白旗を上げれば、今の時間を確認する為に身を捩り片腕を伸ばした。枕元のスマートフォンを軽くタップして画面の眩しさに目を細める、漸く4時になるかならないかくらいの明け方。二度寝をするには余りにも中途半端なその時間を前に、起床を告げるかのように睡眠アプリを解除した。夜中の間に録音された寝言やら物音やらが音声データとして画面上に羅列されるも今はそれを聞く気は起きず、行儀悪く布団をばさりと片脚で蹴り上げると、布団の外と中の温度差にスウェットの下で素肌がぶるりと震えた。

携帯と鍵だけをポケットに突っ込み厚手の上着を一枚羽織って、玄関に放り出していた靴を引っ掛けると何の躊躇いもなく部屋を出た。エレベーターからロビーを抜けて外へ、未だ外は暗いし顔を撫でる空気は死人の手が触れたかの様に冷たくて、一瞬の後悔が過ぎるも足は動きを止めることは無かった。人っ子一人見当たらない道をポケットに手を突っ込んだ儘ずんずんと歩けば、ほんの数分足らずの場所にコンビニがポツンと一軒建っている。薄暗い景色の中で主張する煌々とした明かりに目を細める、哀れな虫がおびき寄せられるかの如く無防備に自動ドアへと吸い込まれた。

──ホットラテとおにぎり。食べ合わせだとかそんなのはどうでも良くて、ただ目に付いたものだけを買った。いつもならレジ横のチキンも買うところだったが、今は肉を食べる気分じゃない。それよりももっと素朴で優しい舌触りと食感を胃に入れたかった。コンビニを出た駐車場脇の車止めに寄り掛かり、包みを剥いて齧り付く。あっという間に温くなり始めていたラテを開け喉へ流し込む。余り食べ合わせには向いていない組み合せだったかもしれない、だが今の自分の気紛れな行動と胸中に纏わりつくわだかまりのちぐはぐさには随分とお似合いだった様に思えた。咥内に残っている甘ったるさごと冷えた空気を吸い込み、細く長く吐き出す。乾燥した凍てつく空気が喉を通ると、喉奥がヒュウと細く鳴いて、軋み、直後一人で盛大に噎せた。煙草の煙を幼稚に吸い込んでしまったかの様な恥ずかしさを憶えるも、自分の咳き込む声は近くの建物に意味も無く反響して空気に溶けていく。咄嗟に辺りを見回した自分が余りにも馬鹿らしく思えた。

顔をあげると、気付かないうちに周囲が明るくなっていたことに気づく。建物と建物の間に太陽が顔を出し、ただ義務的に、もしくは必然的に今日という日を始めようとしていた。冷え切った空気の中に鳥の鳴き声が聞こえる、目の前を一羽のカラスが通り過ぎて、建物の間へ吸い込まれる様に向かって真っ直ぐ飛んで行った。黒い体に反射して、朝焼けに燃えていたあの赤茶けた羽がやたらと目の端にこびり付いている。きっとあの火が燃え広がるまでそう長くはかからないと思った。──俺は少しづつ静寂が朽ちていく感覚を肌で感じつつ、ゴミしか入っていないビニール袋を片手に立ち上がると、元来た道をまた辿るように歩き出す。背中に徐々に強くなる陽の光を感じながら。薄暗い空気に置いてきたわだかまりはきっと直ぐ駐車場脇の灰となるだろう、もう振り返って確認する必要なんてない。

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